Kai's English Room

僕は、英語が大好き。日本で独学で英語を勉強して、英検1級に合格。今も英語を教えています。

ベスト・キッド

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映画の中で、日本人がどのように描かれているか、は興味深い。今日の映画は「ベスト・キッド」。1984年のアメリカ映画で、原題は"The Moment of Truth/ The Karate Kid"(karateは、アメリカ英語だと、[クディ]に聞こえる)。4作が制作され、沖縄が舞台の作品や、ヒラリー・スワンク主演の女の子が主人公の作品もある。2010年には、北京を舞台にして、ジャッキー・チェンが出演したリメイク版も公開された。監督はJ.G.アヴィルドセン(あの「ロッキー」の監督)、ノリユキ・パット・モリタはこの映画でアカデミー助演男優賞にノミネートされた。王道の青春映画で、いじめらっれ子の少年が、空手を通して、精神的にも成長していく。見るといまでもスカッとする、楽しい映画だ。僕はこのシリーズが大好きで、4まで全部観たよ。

「異文化」の観点からは、登場する唯一の日本人(日系アメリカ人)Mr.Miyagiの描かれ方が、面白い。ミヤジ、いやミヤは、沖縄出身の空手の達人で、今はアパートの管理人をしている。このアパートに引っ越してきて、町の空手道場「コブラ会」の連中に袋叩きにされた高校生ダニエルは、ミヤギに空手を教えてくれと頼む。しかし、ミヤギはダニエルに車のワックスがけや、床磨き、塀のペンキ塗りを毎日毎日やらせるだけで、ちっとも空手を教えてくれない。しかし実は、こうした日常の動作を正確に繰り返すことで、ダニエルは知らないうちに空手の基本動作や呼吸法、防御の型を身につけていたのだ。こうした教え方は、日本の伝統的な、職人や「芸」の訓練法を想起させる。大工、料理人、陶芸家から落語家、棋士などなど、時には内弟子として、師匠の家に住み込んで身の回りの世話をしながら、技術や「芸」を盗め!と言われ、決して手取り足取り教えてもらえなかった時代。(今はそんな教え方をすると、若い人はたちまち逃げ出してしまうようだが・・・ )各練習の意義や注意点を言葉で明確に指示するのではなく、「目で見て体で覚える」ことが大事、というのは、「言葉」というものが各文化の中でどうとらえられているかに関わる。

 「なんのために戦うのか」について、ミヤギ「道」空手と、「コブラ会」では、大きく違う。ベトナム帰りのコブラ会の「センセイ」は、勝利至上主義で、勝つためには手段を選ばない。No mercy!(情け無用!)が合言葉。一方、ミヤギにとって空手は「守るため」「戦わないため」「精神を高めるため」にある。「柔道」「剣道」「茶道」「華道」など(松本道弘さんの「英語道」も)、日本人は、単なる「技術」の習得をより高い精神的境地を求める「道」にまで昇華させた。そういえば、野球の王貞治さんは、真剣を振って鍛錬していたな。現JOC会長山下泰裕氏がロス五輪で柔道無差別級金メダルを獲得した時の決勝の相手、エジプトのラシュワン選手が山下の痛めた右足を狙わなかったとして、日本では「えらい!」「フェアプレーの鏡」と称えられた。

 ミヤギの英語にも注目だ。かなりむちゃくちゃなbroken Englishでありながら、ちゃんと言いたいことは伝える。「深い」名言も多く、「Mr. Miyagi語録」を作ろうかと考えている。

Balance good, karate good, everything good.

人生における「バランス」の大切さ。いいな、これ。

Win, lose, no matter. 「勝つとか負けるとかは、どうでもいいこと」

Trust quality, not quantity.「量ではない、質だ」

 この映画に奥行きを与えているのは、ミヤギという人物の影の部分も、しっかり造形されている点だ。なぜ、彼は人目を避けてひっそり暮らしてきたのか。ミヤギの過去に何があったのか。そこにはアメリカの日系人が体験したつらく悲しい歴史がある。1941年の真珠湾攻撃後、アメリカ政府は日系人強制収容所に入れ、財産を没収。(日系といえども市民権を持つ同じアメリカ人に対するこの扱いは、明らかに不当で、戦後、アメリカ政府は日系人に対し、正式に謝罪した。)ミヤギの妻は妊娠中に収容所に入れられたが、出産時の合併症で、母子共に死亡。当時ミヤギはアメリカ軍442連隊の軍曹として、ヨーロッパ戦線でドイツ軍と戦っていた。442連隊はほとんど日系人で構成され、アメリカ軍で最も勇敢な部隊として有名だった。当時の日系人は差別され、スパイの疑いをかけられらていたので、勇敢に戦って「愛国心」を証明するしかなかったのだ。いい映画はやはりちゃんと人物の背景まで描いているね。

 人と関わらずひきこもっていたミヤギにとっても、ダニエルとの出会いは、新しい人生への扉を開くことになりそうだ。