Kai's English Room

僕は、英語が大好き。日本で独学で英語を勉強して、英検1級に合格。今も英語を教えています。

Gung Ho

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日米間の異文化コミュニケーションを考える上で、とても興味深い映画があります。

GUNG HOロン・ハワード監督 マイケル・キートン主演 1986年アメリカ映画)

ロン・ハワードといえば、「アポロ13」などの名監督で、マイケル・キートンティム・バートン版「バットマン」の主演をした一流の俳優。日本からは、昭和の名優、山村聰が出演。これだけ聞けばどんな素晴らしい映画かな、と思いますが、映画としての出来は、まあ失敗作。B級コメディーです。しかも古い。なぜこれが興味深いかというと、日米間の異文化摩擦をメインテーマにした数少ない作品だからです。ここで描かれていることの多くは、今でも十分検討する価値があると思います。

 映画の時代背景としては、1970年代、日本車は大量にアメリカに輸出され、そのためアメリカの自動車会社は軒並み経営不振に陥ります。結果、「日米貿易摩擦」が勃発。結局は政治的決着で、80年代には「日本車の輸出自主規制」が始まり、さらに日本の自動車メーカーは、アメリカでの「現地生産」を求められます。

 さて、そんな流れの中で、アメリカ・ペンシルバニア州(今度の大統領選で、当落のカギを握った州ですね)の田舎町で、町の経済の全てを担う自動車工場が閉鎖されました。町ではなんとか経済を立て直すため、ハントという男を日本に派遣。やっとのことで、アッサン(圧惨)自動車の誘致に成功します。町民は日本の会社を大歓迎し、ハントは町の英雄に。

しかし・・・ 日本から派遣された経営陣と、現地のアメリカ人労働者の間で、トラブルに次ぐトラブル。ハントはその両者の板挟みになります。すわ、撤退か?さて結末は??

 「日本的経営」を押し付けようとする日本人と、自分たちのやり方を変えようとしないアメリカ人。

具体的なすれ違いの例が、たくさん出てきます。

①ハントがアッサン自動車の本部に乗り込んで、町のよさをプレゼンしたあと、「さあ、じゃんじゃん質問してくれ!遠慮はいらない。」と言って身構えるなか、日本人は全く無表情で沈黙。質問はひとつもなし。(個人的には、僕の授業のあとみたいで、見るのがつらい)

②朝の「体操」の場面。日本の工場では、朝、全員で体操するのは当たり前の光景だが、慣れていないアメリカ人労働者たちは、日本人幹部を嘲笑し、ふざけ合う。(これ、実際に起こります)

③日本人とアメリカ人の親睦を深めるために、ソフトボ-ル大会を開催。日本人チームは、最初から「勝つぞ!」と本気モード。揃いのユニフォームを着て、試合前にも真剣に練習。

アメリカ人チームは、服装もバラバラ、リラックスムード。

さあ、試合開始。日本チーム1番、バント。2番もバント。3番、バスター(バントと見せかけて、打つ)。ここは笑ってしまう。日本人の大好きな「スモールべースボール」

④最も印象的なのは、幹部食事会。夫人も招待されている。ここに、ハントとその恋人も参加。

食事が終わり、「さて、ここで少し仕事の話を・・・」と工場長が言うと、夫人たちは一斉に席を立つ。しかし、ハントの恋人だけは動こうとしない。ハントは出て行くように促すが、彼女は"Noboby minds,right?"「私も工場の状況が知りたいから、ここに居ていいでしょう?」と日本人幹部たちに問いかける。幹部たちは無言。下を向いたり、露骨に嫌な顔をしている。彼女は"See?"「ね、居てもいいって。」

日本人なら、空気をよんで、「あ、みんな嫌そうな顔をしてる。ここにいちゃいけないんだ」と気づくはず。でも逆に彼女は「やっぱり居ていいんんだ」という確信を持つ。なぜなら、誰も「言葉で」反対しなかったから。反対意見がなかった、つまり誰も反対してない、居てもいいのだ。

ここにコミュニケーションのスタイルの違い如実にでている。「言わなくてもわかるでしょ」空気を読め、以心伝心、忖度の日本と、「言わなければわからない」から、言葉で具体的に明確に表現しろ、状況よりそこで何と「言ったか」が大事なアメリカ。

この場面は秀逸です。

 

 この映画は日本では劇場未公開です。理由のひとつは、日本人役の俳優たちが、山村聰を除き、全員日系アメリカ人なので、日本語が変。とっても変なので、ちょっと不愉快になります。

英語的には、小ネタがちらほら。

ハントが、日本人秘書に"What's cooking?"「調子はどう?」というと、秘書が"I'm not cooking. I'm typing."というトンチンカンな答えを返したり。

 

ま、この「迷作」は一度は見る価値ありと思いますよ。